明るい工場

宮本百合子

明るい工場書籍情報

底本:「宮本百合子全集 第九巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本「宮本百合子全集 第六巻」河出書房
   1952(昭和27)年12月発行
初出:「働く婦人」
   1932(昭和7)年9、10月合併号
入力:柴田卓治
校正:米田進

明るい工場 5

宮本百合子

 ドン国営煙草工場は生産高がソヴェト同盟一二を争うほどあり、労働者は全体で千何百人かいる。仕事の性質上婦人が多いので、ここの衛生委員は特別に歯科の診療所を工場内に設けた。小ざっぱりとした白い壁の小部屋で、ピカピカ清潔な医療道具がガラス箱の内に揃っている。白い上っぱりを着た医者が一人の女の患者を扱っているところだった。
「女はどうしても姙娠やお産で歯をわるくするのです。ところが働きながら歯医者へ通うことは時間の都合で不便だから、とうとうわたし達は工場へ歯科診療所をこしらえることにしたんです。二年計画でやったんです。みんなよろこんでいますよ。――わたしたちは誰しも早く婆さんになってしまいたくはないものね」
 私も一緒に笑ったが、ふと思いついてきいた。
「――でも、時間はどうなんです?――つまり仕事の間にここへやってきて治療して貰うらしいけれど、その時間は、やっぱり八時間の労働時間にくり入れられるんでしょうか」
「そうですとも。丈夫な体になっていなければ立派な働きもできないわけじゃありませんか。わたしたちには工場も健康も大切です、どちらも自分のものだもの。……そうでしょう?」
 わたしはこの言葉をきいて、体が熱くなるような感じにうたれた。革命まではロシアの工場でも、日本の工場と同じようなひどい条件で女が搾られていたのである。